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第3回 後半「傷病者の意思に沿った救急現場での心肺蘇生等のあり方と臨床倫理」【医療・介護における臨床倫理シリーズ】

国際モダンホスピタルショウ21:52

Transcription

それでは、病院や救命救急センターにおける救急対応だけではなく、この人生の最終段階にある傷病者の意思に沿った救急現場での心肺蘇生等のあり方について、次にお話をさせていただきます。お話の内容は、臨床救急学会という私が代表理事を行っている学会が行った提言についてご説明させていただきます。その上で、この提言に沿って行われた総務省消防庁の平成30年度の救急業務の在り方に関する検討会で検討された内容についてお話をさせていただきます。そして、同じく同時期に東京消防庁で行われた東京消防庁救急業務懇話会での議論についてもお話をさせていただき、最後に現在東京消防庁でどのようにこのような人生の最終段階にある傷病者に対して現場での心肺蘇生を行っているかという実態についてのお話をさせていただきます。

まず最初に、日本臨床救急学会の提言についてお話をさせていただきます。日本臨床救急学会は、救急医学・救急医療に関わる全国的な学会でございますが、その特徴は医師だけでなく、看護師、救急隊員、薬剤師、診療放射線技師、臨床検査技師、あるいは社会福祉士など、救急医療に関わる様々な職種の方が同じテーブルについて、患者さんや傷病者にとって最もふさわしい医療は何だろうか、救急医療はどうあるべきかということを議論する学会であるということになります。

この日本臨床救急学会において、救急現場の組織中止ルールの明確化ということで、書面で患者の意思が確認された場合には、救急隊が現場に着いてから心肺蘇生を中断することも考慮すべきだということで指針を出しました。これは2017年4月にこのことに関してプレスリリースをした際の東京新聞の記事で報じられました。この際、日本臨床救急学会の提言は非常に広く取り扱っていただきました。本人が望まない心肺蘇生に関しては、一旦蘇生を始めたらもう中止ができない、本来望んでいないにもかかわらず病院まで心肺蘇生を続けながら運ばなければならないということに関して、途中で軌道修正をするような手順ができないのかということで議論を巻き起こしたということになります。

その中で、日本臨床救急学会が提言を出したこの救命中心の提言に関しましては、まず現場に救急隊がついたら、その場では必ず心肺蘇生を始めるのが大原則ということになります。そして、救急隊の側から心肺蘇生を希望しますかと聞くことは決してありません。そこに居合わせているご家族や関係者の方から、間違って救急車を呼んでしまったけれども、実は本人が望んでいないので心肺蘇生をやめてくださいという依頼がない限りは、通常通り心肺蘇生を行いながら医療機関に搬送を行います。

しかし、その場でご家族や関係者から、本人が心肺蘇生を望んでいなかったというお話を持ちかけられた場合には、現場でこの本人が心肺蘇生を希望していないということを確認し、家族からそのような心肺蘇生の要望がないということも確認をした上で、本人のかかりつけの医師に連絡を取ります。なぜなら、救急隊員は医師ではありませんから、最終的な判断を自分ですることはできません。かかりつけ医に連絡がついて、かかりつけの医師からその傷病者の状況や持病などで、何らかの理由でこのような事態が予測されていたということを確認していただいた上で、かかりつけ医から心肺蘇生の中止の指示が出た場合には、これは病院に運ぶことなく、その場で心肺蘇生の中止を行い、かかりつけ医が来るのを待つという手順になります。このような手順は、これまで日本の中では地域によって行われている地域もごく少数ございましたが、非常にばらつきがございましたので、日本全国の標準的な考え方として学会から提言をさせていただきました。

内容はもちろん繰り返しますが、人生の最終段階にある傷病者が心肺蘇生を希望していない場合には、本来119番通報しないのが最も望ましいわけです。しかし、周囲の人が誤って119番通報をしてしまった場合には、そこで出動した救急隊が現場で初めてこの心肺蘇生を希望していないということを伝えられてしまうという事例が実際に発生しています。このような場合には、救急隊は救命を優先して、心肺蘇生をすべきか中止すべきかという判断を迫られるわけですが、それに対しても悩みが多かったということで、日本臨床救急学会はこれに対しての手順を示したということになります。

救急隊員は、先ほどの手順でも示したように、まずは心肺蘇生を開始します。これは心肺蘇生を1分2分行っていた場合には、それだけでその傷病者はもう回復不能になってしまいますので、まずは開始するということが大事です。そして、かかりつけ医に直接連絡をして、かかりつけ医から指示をもらった場合には、心肺蘇生の中止の是非についての確認が行われるということになります。かかりつけ医が直接指示を出していなければ、心肺蘇生の中止ができるということになります。

繰り返しになりますが、心肺蘇生を望まないのであれば、119番通報に至らないのが望ましいと考えられます。そのような社会の実現のためには、国民全体の理解が求められます。また、このような高齢者を支える地域の医療や介護福祉の関係者への働きかけが重要になってまいります。また、かかりつけ医が必ずしも24時間連絡が取れない場合にどうしたらいいかということについては、かかりつけ医とメディカルコントロール協議会との間で十分な事前の話し合いによる合意が形成されている必要があるというふうに提言では述べております。

この提言を受けて、総務省消防庁ではこのような傷病者に対する対応について、救急業務の在り方検討会で検討が行われました。実際に全国の消防本部でどのような対応をしているのかということを、全国の728の消防本部、47都道府県の都道府県メディカルコントロール協議会、そして250市地域メディカルコントロール協議会に調査を行いました。回収率は100%です。このような場合にどのように対応するかというルールを定めているのは全体の45.6%の消防本部でございました。また、その中で医師からの指示などがあれば心肺蘇生を中断することができると答えている消防本部は30.1%でした。逆に、基本的には心肺蘇生を行いながら本人の意思にかかわらず医療機関まで搬送するというところが過半数の60%に至っております。

このような事例を経験したことがあるかということに関しては、過半数の55.4%の消防本部が平成29年中に経験があったと答えています。そして、どのような場所でこのようなことが起きたかというと、やはりご自宅と介護施設等がそれぞれ8割近くを占めているということが調査でわかりました。また、心肺蘇生を拒否する意思が誰から伝えられたかということに関しては、自宅では主にご家族からということが多く、65%が家族の証言ということになります。また、施設では介護施設の職員からが約半数ということになります。

そして最後に、東京消防庁での取り組みについてお話をさせていただきたいと思います。東京消防庁でも同じく平成30年度の東京消防庁救急業務懇話会でこのあり方について議論が行われました。最終的な答申の内容は、今までの議論に沿ったものとなりました。まず、現場に着いた救急隊員は必ず心肺蘇生を開始します。この段階では119番要請をされたということで、基本的には心肺蘇生を受ける医師がいるというふうに考え、心肺蘇生を開始いたします。しかし、開始した後に家族等の関係者から、傷病者本人が心肺蘇生を望んでいないという意思を示された場合には、この心肺蘇生の中止を検討します。

その場合、大事なことは、傷病者が人生の最終段階にあって事前に専門的な医学的検討を経て適切な情報提供と説明がなされた上で話し合われた医師であるということ、そしてその病気によって現在心肺停止をしていることが重要だという風に考えられます。そのことを判断できるのはかかりつけ医だけでございますので、そのことをかかりつけ医に問い合わせることができることが条件となります。従いまして、傷病者の意思の確認と人生の最終段階の判断というのは、救急隊員が勝手に行うものではなく、ご家族の言葉をそのまま丸呑みにするのでもなく、この医師等を確認するために必ずかかりつけ医等に連絡をして、そしてその傷病者が人生の最終段階にあることを確認し、心肺蘇生を受ける意思がないことの確認をするということが必要になってまいります。

もし、かかりつけ医と連絡がつかない場合には、これもやむを得ませんので、ご本人の意思に反するかもしれませんが、通常の心肺停止処置者と同様に蘇生を行いながら医療機関に搬送いたします。そして、かかりつけ医に連絡がついた場合には、かかりつけ医からこの中止の指示を受けた場合に、家族等にこの心肺蘇生を中止するという同意書に署名をもらった上で心肺蘇生を中止し、かかりつけ医の死亡確認を得るために、その場で心肺蘇生を止めた状態でかかりつけ医に引き継ぐということになります。

このような形のフローチャートになると思います。今のお話が実際にどのくらいうまくいっているのかということは、昨年12月16日から始めたこの制度が半年経った令和元年では、令和2年6月30日までの実施状況をお伝えしたいと思います。この間、東京消防庁では、救急隊が現場に着いてから傷病者本人に心肺蘇生を望まない旨が家族等から示された事案は70件ございました。そのうち、本人が元々患っていた病気と心肺停止の原因が別の病気あるいは経過であるため、対象とならない事案が0件ございました。これらについては通常通り心肺蘇生を行いながら搬送しております。対象事案はこの後れを引いた65例ですが、そのうち61例は現場で心肺蘇生を中止して病院に運ばなくて済んだ、つまり本人の意思を尊重することができました。この61例のうち47例では、かかりつけの医師がそのまますぐに現場に駆けつけてくれ、そこで直接引き継ぐことができました。かかりつけの医師が現場に到着するまでの時間は平均すると28分ということになりました。また、かかりつけの医師が現場に来るのに時間がかかる場合には、かかりつけの医師の指示を得た上で、一旦家族等に引き継ぎ、家族とともにかかりつけの医師の到着を待つという形で、かかりつけの医師と顔を合わせない形で引き継ぐものが14件ございました。本人の意思に反して医療機関に搬送した件数は4件でございます。一つはかかりつけ医の連絡先がわからなかったという1例、連絡したけれども繰り返し電話をしても電話がつながらなかったものが1件、そしてかかりつけ医に連絡をした結果、かかりつけ医から病院に運んでくださいという具体的な指示を受けたものが2件でございます。これらの4件については医療機関への搬送が行われております。

以上、本日のお話をまとめさせていただきます。先ほど示しましたように、今後も高齢の救急患者の割合は増加していくことは、我が国の人口構造から見て間違いがないと思います。高齢者は救急搬送となる率が高く、一人ひとりの高齢者は若い人よりも病気やケガをする率が高い、そしてそのような高齢者の人口自体が増加しているということは間違いないと考えられています。

そしてもう一つ、先ほどの調査でわかったことは、高齢者はこのような形で救急入院をすると、若い人と違ってすぐに家に帰れないということです。もともとの持病があったり、体が脆弱であるという問題があります。そもそも、慢性的な病気が悪化した場合には、その慢性的な病気があるために完全に健康な状態に戻るということは難しい場合も多いわけです。そして、高齢者であっても重症例は救命救急センターに搬入されることがしばしばあります。その際に、本人の意思に反した延命治療が開始され、そして一旦開始されて延命治療はなかなか中止し難いということが医療機関の中でも起こっているということがございます。

やはりこのようなことを考えると、救急医療と在宅医療というのは今後より連携を深めていく必要があると考えます。救急医療はその後に続く医療があってこそ展開することができるわけですし、在宅医療は急変時の受け皿があってこそ安心して自宅の中での治療ができるわけです。我々救急医療を担当する者と在宅医療に従事している先生方との間の連携は、今後非常に必要になってまいります。しかし現状では、なかなかお互いに理解できていないという現場の実情もございます。

救急医療の立場でみますと、本当に積極的な治療の適用があるのか疑問がある患者さんを頼まれることがございますし、またそのような患者さんを一生懸命治療しても、その後元の状態に戻らないとなかなか引き取っていただけないというような不信感があると言われています。一方で、在宅医療の先生方からは、救急病院にいつでも悪くなったら来てくださいと言われているのに、実際に救急入院をお願いすると断られる、あるいは後遺症が残った状態で患者さんを押し付けられるというような不信感があると言われています。

これらの相互理解で解決していくことが、今後の地域包括ケアシステムを展開する中で極めて重要だと考えております。そして、本日のメインのテーマである救急現場における本人の意思に基づく心肺蘇生の中止ということに関しては、これからの課題として我々は考えていかなければいけない問題だと思います。ここにも、さらに高齢化社会が進む中で、救急医療の立場からも在宅医療の考え方を重視し、患者と家族が本当に望んでいる対応を取れるような体制に向かう必要があるだけでなく、救急隊が心肺蘇生を始めてしまってから本人が心肺蘇生を望んでいなかったことが判明した場合でも、心肺蘇生を止めてかかりつけ医による穏やかな最期へと軌道修正できるような社会の仕組みと国民の合意形成が望まれます。

これらのことはすべて、いわゆる臨床倫理という観点から今後の大きな課題だと思いますし、我々が高齢化社会の中で、超高齢社会の中で解決していかなければいけない重要な問題だと考えております。本日はどうもご静聴ありがとうございました。