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ロボットが働く未来はやってこない 地球の歴史 その124

サイエンスライター北村雄一の地球放送18:16

Transcription

サイエンスライター北村優一の地球放送。地球の歴史、その124。本日は「ロボットが働く未来はなぜやってこない」について語ります。

ロボットは人間や生物よりも劣った存在でしかない。この話自体はすでに120回放送で語りましたね。機械も人間も体を作る元素が持っている電子の力で動いています。人間を含め生物は水素、炭素、酸素という比較的軽い元素を使い、その電子を使用します。一方、機械は動力源として金属とそれが持つ電子を使うので、どうして重くなるし、人間の筋肉に該当するモーターにはさらに重い鉄やジウムを使う必要があります。体が重くなる分、どうしてもロボットは不利になるんですね。体重あたりで考えると、ロボットが持てるエネルギーは人間・生物の1割程度にしかなりません。人間より燃費が10倍悪いと言えばいいでしょうか?科学の時間に習った周期表を思い出せば、ロボットが人間に叶うはずがないことはすぐ理解できるんだけど、僕らロボットに夢を思い描いて周期表のことをすっかり忘れていたんですね。

ロボットと機械には他にも致命的な結果があるんだけど、このことに多くの人は気づかないまま誤解を積み重ねてきました。そういう勘違いには、イギリスの天文学者フレッド・ホイルさんが言ったような有名なものもあります。「単純な元素が組み合わさって生物が誕生した」と生物学者は言うけど、生物のような複雑なものが元素の偶然の組み合わせから本当に生まれるんだろうか。それはバラバラの部品が竜巻でかき混ぜてジェット機ができるような、ありえない確率だろう。

フレッド・ホイルさんのこの発言を聞いて開けれた人もいるし、反対に喜んだ人もいました。「生物の自然発生なんて確率的にありえない。やっぱり聖書の言う通り神様が生物を作ったんだ」と。フレッド・ホイルさんは宇宙論の発展に寄与した業績ある人だけど、このどちらかというと不規則な発言の方が、むしろ有名になってしまったんですね。

そしてフレッド・ホイルさんのこの発言、明らかな間違いでもあります。確かに竜巻で巻き上げられた機械の部品は組み上がらないけど、それはなぜか?それは機械の組み立てには向きがあるからですね。向きがずれていてはナットとネジははまりません。でも元素同士の結合は違いますね。酸素と水素は向きと関係なく結合して水を作ります。フレッド・ホイルさんの言うことがもし正しかったら、ネジとナットが偶然はまることがまずないように、科学反応も起きないか、起きるにしてもごく稀な出来事になってしまうはずだけど、実際には科学反応は普通に起こるんですね。

機械の部品と違って元素同士の反応は向きと関係なく起こる。なぜなら元素は体の表面に電子を持っていて、体の中心にあるプラスの電気と体の表面の電子が持つマイナスの電気、この引っ張り合いでできている。この電子を売り物にして酸素と水素は結合して水を作る。酸素と水素の中心にはプラスの電気があって、その間に挟まった電子が持つマイナスの電気が水素と酸素をつなげる。電子が糊のような役割を果たして、酸素と水素が結合して水ができるんですね。こういう組み立てだから、酸素と水素の結合には向きは関係ありません。ナットとネジのように向きを正確に合わせないと組み上がらないなんてことは起こらないんです。

ちなみに、もう少し詳しく書くと、水分子の中で電子君はこういう四面体の配置をしているんですね。電子君たちはみんなマイナスの電気を持っているから、お互いに反発して酸素原子を中心にして遠距離に離れて四面体の角に当たる場所にそれぞれ陣取るんですね。その角の2つに水素が乗り付けされるようにくっつく。こうして水分子の折れ曲がった姿ができるんですね。そしてこの組み上がりに向きは関係ありません。フレッド・ホイルさんは元素の組み上がりと機械の組み上がりの違いを忘れていたんですね。

そしてこれは機械論の運用を間違えてしまった例でもあります。僕らは機械を使う時に、機械には魂があって機械はその魂で動くなんて風には考えませんね。パワーショベルにはエンジンがあって、それが油圧ポンプを動かして油の圧力がシリンダーを動かし、パワーショベルが動作する。がそうやって動作するし、私たちは機械の動作をちゃんと理解しています。機械の魂が機械を動かしているなんていうごまかしな説明はしません。

これと同様に、人間には魂があって魂が人間を動かしている。この説明は説明になっていません。人間の体は脳と神経によって制御されています。ナトリウムイオンとカリウムイオンによって生じる電気的な刺激で動作しています。ナトリウムやカリウムの調整に不具合が生じると足が釣ったりしますね。そして人体は酸素の科学反応でエネルギーを確保していて、心臓は酸素を含む血液を全身に送り出します。血液に含まれる赤血球、それに含まれるヘモグロビンは鉄を持っていて、その鉄が酸素を運ぶ。魂という検証不可能、不可知の仮説に頼ることなく、機械と同様に生物を仕組みで把握して説明する。これが機械論です。魂とか精神とか、そういう怪しげな黒魔術要素を捨てて成立した科学の基本であり、その思考ですね。

でも機械と生物には決定的な違いがあって、これを忘れるとフレッド・ホイルさんのような間違いをしてしまうんですね。先に述べたように、機械の組み立てには向きがあるけど、元素の組み立てには向きがない。そして機械の部品は生物を作る部品である元素よりはるかに大きいという違いもあります。機械の部品も元素からできているけど、部品としてはセンチ単位の大きさがありますね。でも生物は元素や原子、それそのものを部品としていて、水素原子の大きさは1億分の1センチぐらい。水素原子は原子としては小さい方だけど、大きな原子も大きさは水素原子と変わりません。つまり、機械の部品と生物の部品は大きさに8桁も差があるんですね。原子から組み立てた生物の構成要素、酵素とかも大きさは非常に小さいです。だから機械と生物とでは部品の振る舞いがまるで違っています。

熱の正体とは、原子や元素、それからできる分子の動きでした。例えば水の分子は凍っている時は振動しているだけだけど、温度が上がって溶けて液体の水になると、水の分子は毎秒400mとか600mの速度で動き回っています。こういう水の分子の動きは水の流れとは全然関係ないものです。コップの中に溜まっているだけの水も、その分子は盛んに動いています。ただし、他の分子も動いているからお互いにぶつかり合って全然前に進めない。みんながすごい勢いで動いているけど、みんながバラバラ。向きもバラバラなので、全体としてどっかに動くことはありません。だからコップの中の水は止まって見える。しかし、その中では水の分子が盛んに動いている。この動きこそが熱の正体で、そして生物が生きるための部品を動かす原動力でもあるんです。

生物が新陳代謝に使う酵素、原子の大きさが1億分の1センチなら、酵素はその数十倍、数百倍の大きさがありますね。生物の部品である原子は機械の部品より8桁小さく、酵素でも6桁、5桁小さいんですね。だから酵素も、酵素が働きかける物質も、そのどちらも動いているし、動いて相手を見つけて作用して作業することができる。アルコール脱水酵素なら、体内に入ってきたアルコールを見つけて速やかに分解することができる。生物の体を作る部品は1億分の1センチとか数百万分の1センチとか、そういう大きさなので、熱さえあれば動いて作業できるんですね。しかもその熱は大した熱ではありません。私たち人間は37度で動いています。でも機械はそうでありませんね。機械の部品が大きすぎます。ネジやナットを体温と同じ37度で温めても、それは動かないし組み上がってくれたりはしません。これが機械と生物の違いです。フレッド・ホイルさんはこの違いを考慮していなかった。

生物を機械的に説明するというのは有意義だけど、機械と生物は部品の大きさが何桁も違う。それが組み立てにおいてまるで違う結果を与える。これを忘れてはいけません。これを忘れた時、フレッド・ホイルさんは理解に失敗して、そして人間はロボットの理解に失敗してしまいました。ロボットは機械だけど、機械を組み立てることができる。だから人間の代わりになる。そう勘違いしてしまったんですね。

ここで前回話したエントロピー増大の法則がまた出てきます。学校でエネルギー保存の法則から明らかなように、エネルギーは使ってもなくならない。それはそこにあります。でもエネルギーは機械のピストンを動かす、という仕事をする。そこにあるはずなのにも仕事をしてくれない。原子が持っているエネルギーが仕事をするには、特に機械を動かすにはエネルギーが集中している必要がある。この場合だと、1つの原子に全部のエネルギーが集中していると、それはピストンを動かして機械を動かしてくれる。でもピストンを動かすとエネルギーをあちこちに小さく飛び散って、もう機械を動かしてくれなくなる。エネルギーの合計量自体はそのまま保存されているのに、エネルギーはもう機械を動かしてくれない。仕事として取り出せなくなったエネルギーがエントロピー。そしてエントロピーは絶えず増大する。なぜなら組み合わせの数が多いから。7つの原子が7のエネルギーを持つなら、原子Aがエネルギー7を持つ場合、原子Bがエネルギー7を持つ場合、こういう具合に7通りの組み合わせがありうる。でもエネルギーの配分が0、0、1、1、2、3の時は、原子Aが1でBとCとDが0という場合もあれば、原子Aが1でBも1でCとDとEが0の場合もあって、組み合わせが多いですね。エネルギーの配分が0、0、1、1、2、3の時、その組み合わせは420通り。7通りよりも420通りの方が出現確率が大きい。だから機械を動かしてくれるエネルギー配分0、0、7は、より出現確率の大きいエネルギー配分0、0、1、1、2、3になって、機械を動かさなくなる。ちなみに、このエネルギー配分の場合、一番少ない組み合わせは全部の原子がエネルギー1を持っている場合。これは1通りだけです。それを見ると、エントロピーは出鱈目の尺度であるという世間一般の理解がなんとなくわかりますね。1つの原子に全部のエネルギーが集中している場合よりも、0、0、1、1、2、3に散っている方が出鱈目っぽく見えますからね。

でも一方で、エントロピーは無秩序という意味ではないという釈もわかります。7つの原子全部が均等にエネルギー1を持つ一通りしかない稀な状態。全てが均一に混ざった状態は、実はこれもまた稀な状態で、現実世界も完全に混ざってしまうなんてことは起こらないんですね。それでもかなり鳴らされてしまう。そういうことは起こります。例えば太陽が燃え尽きれば、太陽という熱の偏りは消えて温度は鳴らされる。地球が仮に残っていたとしても、太陽を失った時、その温度は宇宙の平均気温-270度に近いものになってしまいます。

でも、今のところ太陽は存在していて、私たちは体温37度で機械を組み立てることができます。宇宙の平均気温-270度よりも300度ほど高いですね。でも機械は人間よりももっと高い温度を要求します。ロボットの電源の1つである火力発電所はその典型ですね。石油を燃やして沸かした水の蒸気でタービンを回して発電する。その温度は600度とかになります。機械という大きな部品を使ったから、空気を動かすにはそれほど高い温度とエネルギーの集中を必要とするんですね。機械を動かすというのは、エネルギーが一部に偏った状態。カードゲームでいうところの稀れだからこそ強い手札を使うということでもあります。でも強い手札を揃えるには大変な労力が必要であるように、機械を動かせる集中したエネルギーの確保には大変な労力がいります。

これが一見うまくいっているように見えるのは石油を使っているから。古代の意味で植物プランクトンが成長する。植物プランクトンは体を作る材料である炭素を二酸化炭素から取る。そしてこれまた体の材料である水素と酸素を水から取る。太陽エネルギーを使って二酸化炭素と水を分解・再構成して体を作って成長し、余った酸素を利用して、それでも余った酸素を大気中に放出する。やがて植物プランクトンは死んで遺骸は海底に沈む。そして地下の熱で分解して炭化水素になっていく。地球の熱エネルギーを加えられて加工されていくわけですね。そして運搬されて条件の良い場所に溜まる。地球内部における石油の運搬と修復は地下水の動きが関連しているんですね。地下水の動きとは学校で習う位置エネルギーの変化と放出です。

こうしてできた石油を僕らはエンジンに入れて、かつて植物プランクトンが放出した酸素と反応させて爆発させ、その圧力でエンジンを回してシベル川を動かす。それは大昔に植物プランクトンが吸収した太陽エネルギーを化学エネルギーの形で放出することなんですね。しかも何百万年、何千万年という長い時間で蓄積した太陽エネルギー、圧縮された太陽エネルギーを使って私たちは機械を動かしている。さらに地球の熱エネルギーと水の位置エネルギーで生成・運搬済みの、いたせりつくせりの動力源。確かに石油のような圧縮された太陽エネルギーなら機械を動かせます。でも石油が尽きたらもうシベル川は動かせない。圧縮された太陽エネルギーという、ほとんど唯一成功した太陽高電・石油火力。これを失った時、私たちは機械動力のほとんどを失います。石油に準じる圧縮された太陽エネルギーである水力は残るけど、水力は現在の1割程度の電力しか賄えないから限界がありますね。

足やロボットを人間の代わりに働かせる。そんな効率の悪いことをする余裕はありません。ロボットは稀に成立する配分、稀な手札でないと動けない機械。そして機械の部品は熱では動けないから、組み立てには精密な制御が必要。確かにロボットはそれができるけど、そのロボットを動かすには、まるで強い手札がいる。稀な手札でようやく動ける機会で、稀な手札を必要とするもの。組み立てる。稀な手札を揃えることが大変であることを考えれば、これは赤字確実ですね。なるほど。石油という最強手札がいくらでも使える。今なら赤字石油で埋めることができるけど、石油がなくなったらそれもうできません。

でも人間は違います。人間は機械より悪い手札でも動ける。なぜなら部品が小さくて37度程度の大運でも動いて仕事ができるから。悪い手札でも動ける人間なら、石油という最強手札がなくても機械を作れるし、人間がこれから作る機械は手作りできる機会に限られますね。僕たちはロボットに夢を見すぎてしまったんです。

ロボットは使用する元素の性質上、重量あたりに使えるエネルギーは人間の1割程度しかない。それなのに機械やロボットが力持ちに見えたのは石油を使っているから。実はガソリンエンジンの効率って私たちと同じくらいですね。それでもすごい力を出せるのは爆発させているから。私たち生物の科学反応よりもエンジンの反応はずっと早い。だから力を出しているけど、それは短時間に使い切った結果であって、やっていることは人間や家畜と同じだったんですね。あるいは自動車を組み立てる産業ロボットを見て私たちは惑わされたのかもしれません。産業ロボットは強い力で動き、時には人間を巻き込む事故も起こします。でも作業ロボットを動かす強い電力は外部からやってくるから、作業ロボットの本体ってあれは火力発電所ですよね。あんなバカでかい本体のその小さな端を見て、僕ら産業ロボットは力持ちだと思っていた。多分こういう勘違いが「ロボットは人間より優れている」という勘違いと夢を生み出したんでしょうね。実際にはロボットにはそんな力ありません。電池は人より重く、筋肉であるモーターも人より重い。あたりあたりのエネルギーが少なすぎて、人間のようには働けないんですね。

皆さんは問いかけます。「なぜロボットが働いてくれる未来が来ないのか」と。答えは単純、物理的に無理だから。周期表を見れば最初から答えは分かっていましたよね。そして周期表を見ればお金がわかる。次回の地球放送「周期表とお金の話」。人類は3度通貨を失った。ま、この場合の通貨とは信用貨幣のことなんですけどね。人類はこれを3回失っているんです。そして多分、石油枯渇前後に地域によるけど4度目の喪失が起こるのではないか。これは本チャンネルがオルドビス紀に戻る起点であると同時に、草文明に至る途中経過でもあるんですね。ではまた来週。